小中学校、「プログラミング」ではなく「情報」という授業はどうですか?

TL:DR

  • 義務教育を受ける人の8割はITの開発者ではなく消費者
  • 義務教育では「情報生産ライン」を流れる「情報」について学ぶべき
  • 現実世界の観察・洗い出し、推論、意見交換 といったポイントを養ってもらいたい

少し前になりますが、こんなのがバズってましたね。

返信や引用RTをみていくと、主に次のような展開ポイントがあるようですね。

  • FORTRANCOBOLなど古い情報を覚えさせている(COBOLはもうちょっとだけ続くんじゃ案件なので、古い、と一概にはいえないところはありますが)
  • 実用的に身につかせようということがなく、教科書を覚えさせようとしているところ(受験英語のような不自然さ)

個人的な感想は次の通りです。

特に言いたいのは前者で、2つ目は蛇足というか観測ポイントの1つでしかないです。

義務教育を受ける全ての人の8割くらいは「開発者にはならない」

日本の義務教育で学んだ人は、日本や世界の社会に出て、なにかしら職なりご飯を食べていく手段を獲得します。

内訳はどうなっているでしょうか?

日本だけ、かつ個人事業主などいろいろのぞいてですが、次のような物が見つかりました。

www.jil.go.jp

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プログラミングを使って、実際にソフトウェアを開発する仕事は、まず私たちのようなSIerやサービスプロバイダなど専門会社であれば、図の「専門的・技術的職業従事者」に該当すると思います。これでいくと、全体の約17%ですね。

またこのほか、一般企業におけるIT部門も考えられます。第三者に開発を委託する場合がほとんどだとおもいますが、それを管理・運用するには適切な知識が必要、という前提で、IT部門を全て含んで考えます。

japan.zdnet.com

2017年とちょっと古いですが、人事に関わることなので一分一秒で大規模に変化するものではないと想定して、このページを信頼しておきます。一般企業において全体人数の約3%ほどがITの内部技術に直接関わる「可能性がある」という程度です。先ほどの17%から差し引き83%、このうち3%ということなので、17%とあわせても、20%を超えることはないでしょう。

これらのことから、つまり現代の日本企業に務める人間のうち、80%強の人間は、ITを使って直接「開発行為」を行うことはない状態です。

全体の2割はデベロッパーで、あとの8割はすべてコンシューマーです。

8割の人は、開発されたものを「適切に使用する」能力が問われてくるわけです。もちろん、そのなかから改善提案ができる人や、デベロッパーに移動する人が増えるのは、とてもうれしいことです。

ITシステムが取り扱うのは「情報」

工場には、生産機械と、生産ラインがあります。コンベアーの上には、生産されている機械部品や化学製品、もしくは刺身の上に乗せるたんぽぽが流れています。

あるネジ工場には、従業員がいます。多くの従業員は、生産ラインの横に立ち、機械がちゃんと生産活動をしているか、生産されたものが正しい品質かどうかをチェックしていきます。このとき、「ここで生み出すべきネジはどんな素材で、どんな規格がある(どのようなことに使われる)」かを理解していなければ、ラインの横に立ってても、何も従業員としての役割は果たせません。

私がいますぐネジ工場のラインに立っても、こうなります。

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ITシステムはこの例えの中でいうと「生産機械・生産ライン」になります。ITシステムの中を流れて生産されるのは「情報」です。その「情報」を、従業員は確認して自分の仕事を進めるわけです。情報はちょっと「見えづらい」ので、完全な同一視はできませんが、可能な限り類推して、例えを絞り出しましょう。

ホテルを経営している人は、ホテルの予約管理システム(生産ライン)を運用して、今日泊まる予定のお客さんの情報(ネジ)を確認するわけです。そのお客さんの情報(ネジ)を使って、お客さんを泊める(ネジを使って製品をつくる⇨売る)ことで、ホテルは売上を得て経営を継続できるわけです。 もしホテルではなく旅行会社だとしたら、この予約情報を契約しているホテルに渡す(ネジを販売する)わけです。

というかんじで、義務教育を受ける人の8割の人間は、「情報生産ライン」を運用するために、「情報」について、学ぶ必要があるわけです。

「情報」という授業はどんなことを教えるべきか?

個人的に、情報システムを適切に活用しさらに改善につなげられる人は、次のようなことができる人である、と思っています。

  • 現実世界の観察・洗い出し
  • 推論
  • 意見交換

一つずつ、なぜ必要なのかということと、実際に学校の授業・テストだとどんな設問がいいかな〜ということを考えていきます。

現実世界の観察・洗い出し

まさにその言葉の通りですが、現実世界のものを観察して、それを明確に単語や文章で、その現実世界のものを構成する要素を洗い出していくことです。 ホテルの予約システムには「宿泊日」「宿泊日数」「宿泊人数」「喫煙有無」などの構成要素が絡んできますね。つまりこれを洗い出す能力を養おうというわけです。

これを問題にすると、次のようなものが考えられるかと思います。

問. お店の棚にリンゴが1つあります。このリンゴがもっている情報を、5つ挙げなさい。

答案例. 色、直径、甘さ、水分量、生産者

という感じでしょうか。わざわざ「お店の棚」と書いてるのは、木に実ってなくて出荷されていることを担保するためです。

これを学校で実現するとしたとき、課題は次のようなものでしょうか。

  • 解答例のリストを準備する手間(考え出したら何十個とあるはずなので。教科書会社で準備するとして、補講などの追加テストをどうするか。)
  • そこに載っていない場合にどう判断するかという、先生の判断力をどう担保するか

まぁ後者については、今の学校授業でもザルだと思うので、あまり気にする必要はないのかもしれませんが・・・。 解答例が「水分量」のとき、生徒が「みずみずしさ」とか書いてきたとき、どう判断するかは、先生の器量を測るのによいかもしれませんね。 あとは「お母さんに買ってこいと言われた個数」とか、私ならコメント付きで◎したいです。

推論

これは、物事のいわゆる「道理」を学ぼうというわけです。

「うちの営業部の利益が減っているのはなぜだ?」⇨「商品と市場のニーズがマッチしなくなり、売り上げが減っている」or「アポを取る手段がマッチしなくなり、売り上げが減っている」or「同じ売り上げを得るための、営業活動コストが高くなっている」

といった分析、推理する能力を養おうというわけです。これは、IT部門でなくても一般企業の主任クラス以上になってくれば必要な能力であるはずですね。

これ学校でどうやるんだ、というか、もしかしてもうやってるかも。

問. 先月に比べて、体重が2kg減っていました。なぜでしょうか?

答案例. 新たにスポーツを始めたから、夕食を食べる量を減らしたから、いま脱衣所の体重計に乗りながら鏡ごしに自分を見ると背後に誰かいr

わからん。

全然問題思いつかないし、なんなら国語の「作者の気持ちを答えよ」のような、道徳の授業のようなファジーさを感じる。 ただ明確に必要なことは、問題例の体重のように「摂取の増減」「消費の増減」、最初の例のように「売り上げの増減」「コストの増減」というように、事象の原因がMECEとしてもれなく、ダブりなく分割できる、ということです。これが漏れると「気合が足りないんだ!」みたいなふわっとしたお花畑のような回答になります。お花畑でひなたぼっこして生きていたいなりぃ。

意見交換

先ほどまでの2問で感じられるかもしれませんが、これらの問題は「観点」というものの存在を意識させる教育になってきます。 なので、意見交換を通して「これは思いつかなかったなぁ」「そういう考え方もあるのか」「それ、どうやって考えたの?」ということを体験して、そのハードルを下げること、そして「思いつかないものはしょうがない」という一人の限界に気づいてもらう、ということを養おうというわけです。

またこんな壮大なことして、設問どうすんの、という感じですが、これ設問できるんですかね?

多分ペーパーテストでの実現は難しいので、チーム実習授業のようなものになるでしょうね。 企業の研修でワークショップみたいなものいろいろやりますが、結構苦手そうな人いますし、学校の授業でやれたら、それはいいでしょうね。こんな感じでしょうか?

問. リンゴが1つあります。このリンゴがもっている情報を、たくさん挙げなさい。多く挙げたチームの勝ち!

洗い出しの問題から「お店の棚に」という制約を外してみました。これによって「木に実っている」「腐っている」「概念として存在しているが実物はここにはない」など様々な思いつきができるようになります。思いつき、驚き、尊敬を養うので、荒唐無稽な思いつきほど、面白そうですね。

まとめ

というわけで

  • 義務教育を受ける人の8割はITの開発者ではなく消費者
  • 義務教育では「情報生産ライン」を流れる「情報」について学ぶべき
  • 現実世界の観察・洗い出し、推論、意見交換 といったポイントを養ってもらいたい

ということでした。

私はIT、もとい情報という概念が大好きなので、このステキさ・進化感をより多くの生徒・学生たちに知ってほしいですね。

実際に学校授業をする先生方、教科書を作る方、教育要綱を作る方、ご連絡とおちんぎんをいただければもっとご協力できますので、ぜひよろしくおねがいします。

おわり

あー長い。新年の誓いはどこへやら。

書き出したら次から次に思いついてしまうので、事前に書いたアウトラインもごっそり変わっちゃうし、妄想が広がって筆(指)は止まるわでたいへんです。

しかも、自分のツイートの「第一に情報リテラシー、第二に論理的思考」とまた全然違う攻め方をしてしまってましたね。

情報リテラシーの大事さについては、またもう1つ大きな問題なので、また別の機会にお話できると良いと思います。短文で。短文で。